闘病記(医師が病に伏して思うこと) 第3話

闘病記(医者が病に伏して思うこと)
第3話 治療経過(1)

いつきクリニック一宮 松下豊顯


第1、2話では発病から確定診断に至るまでの経過をお話しした。今回は治療とその経過についてお話しする。

治療直前は病床で寝返りをうつことさえままならぬ、絶望的な倦怠感に苦しめられていた。この状態がこれ以上続けば、自分は死んだも同然と考えるにほど体力、気力とも憔悴しきっていた。
しかし血管内リンパ腫と確定診断され、2021年10月28日より治療が始まった。R-CHOP+HD-MTX療法というレジュメ(治療で使用する薬剤と投与方法のレシピのようなもの)が選択された。リツキサン(R)、エンドキサン(C)、アドリアマイシン(H)、オンコビン(O)、プレドニゾロン(P)という5種類の薬剤を6クール(一通りの薬剤投与後に3週間の休薬期間を1クールとし、同じ内容を6回繰り返すこと)施行する。
さらに2、3、5、6クール目にメソトレキセート、キロサイド、水溶性プレドニゾロンの髄注(腰髄から脳脊髄液中に薬剤を注入する)を併用する。
また、3-4クール目の間に約1か月間の入院で、リツキサン+高容量メソトレキセートを2週間の間隔で2回繰り返す。

難しい薬剤名が並び、一般の方には分かりにくい話で申し訳ないが、要するに結構強い抗腫瘍薬治療を合計8クール、約6か月間継続して行う身体的にも負担の大きい治療である。
血管内リンパ腫は経過中に脳神経系に浸潤する傾向があり、特に脳神経系への薬剤移行に優れるメソトレキセートの高容量治療が併用される。高容量のメソトレキセートは腎障害、肝障害合併のリスクがあり、大量の補液や合併症予防薬を併用しながら体外への薬剤排泄を促すため、入院管理下で施行される。

さて、10月28日治療開始時に話を戻そう。
治療開始1日目から絶望的な倦怠感が身体からスーッと消えていくのをはっきり自覚した。2日目には倦怠感だけに限れば、発症前に近い状態まで改善し、あまりの劇的な効果に感心するばかりであった。痺れに関しても、治療開始1-2日間で肛門周囲、下腹部、右足はほぼ正常近くまで改善した。
この為痺れの原因は血管内リンパ腫による症状であったと考えたが、両側手指と左足の痺れはその後も持続した。

ここで浮腫みについて詳しく触れてみたい。
第1話で発病初期より低炭水化物ダイエット、プチ断食による減量を開始したことをお話しした。
しかし同時期より尿量の減少、濃縮尿、クレアチニンの上昇を認め、水分貯留が進行していると考えた。顔面は浮腫み、瞼は腫れぼったく、腹部も次第に緊満し、陰嚢水腫も認めるようになった。治療開始後数日経過し、倦怠感は著しく改善したにも関わらず全身の浮腫みは一向に改善なく、腹部(特に下腹部)の膨隆、緊満感は依然存在した。腹部CT検査で腹部膨隆は内臓脂肪によると言われていた。
病初期から開始したダイエット療法は1カ月以上経過したにもかかわらず、現実には自身が想定した体重より10Kgも超過していた。即ち10Lもの水分が身体に貯留し、この水分はいつ身体から抜けるのだろうと考えていた時のことだ。
治療開始から7日目の夜22時から猛烈な利尿(身体から尿として水分が排泄されること)が始まった。ちょうどプレドニゾロン100mg/日を5日間内服終了後2日目のことであった。1時間毎に判で押したように500mlの排尿(この頃には排尿量が目測で比較的正確に分かるようになっていた)を認め、排尿後の体重測定も正確に0.5Kgずつ減っていくのが分かった。
途中から尿はまるで水のように透明になり、希釈された水分が身体からすごい勢いで抜けていくのを実感した。結局翌朝8時までの10時間に計5Lの水分が排泄され、体重も正確に5Kg減量した。一度に多量の水分が失われ、身体への影響や電解質異常を心配したが特に問題はなかった。腹部膨隆や緊満感も一夜にして消失し、腹部はほぼ平坦になった。
これで腹部膨隆の主たる原因は内臓脂肪ではなく腹水であったと確信した。翌日も一晩で3Kg減量し、わずか2日間で8Kg、8Lの水分が排泄された。その後数日でさらに2Kg体重は低下し、ピッタリ自分が予測していた体重に一致した。治療後は発熱や寝汗などの症状も消失した。

治療開始1-2週間の頃、化学療法の合併症である筋肉のだるさや骨髄抑制、特に好中球は80まで減少し、GCSF(骨髄で白血球への分化を促進し、白血球減少を予防する治療薬)の皮下注射を5日間連日施行した。治療開始3週目からは比較的病状は安定し、2021年11月2日退院となり、外来での化学療法に移行した。退院1週間前より病棟の廊下歩行を再開した(それまでは倦怠感のため病床と室内トイレだけの活動範囲であった)。久しぶりの廊下歩行では左足の歩みが悪く、痺れによりバランスが取り難いためと考えていた。
しかし、退院後も歩行障害が持続するため、自分なりに運動機能を調べ、左腓骨神経麻痺によると思われる足関節背屈障害(爪先が上方に向くような足関節の運動が困難な状態)が主たる原因であると考えた。痺れと左腓骨神経麻痺の原因に関して血管内リンパ腫が疑わるものの、原因は明らかでなく、現在リハビリを行いつつ経過観察中であるが今のところ改善はみられない。

2クール目と3クール目の化学療法の途中で左上腕尺側静脈にCVポート留置の外来手術を受けた。自分では上肢の静脈はよく発達している方だと思っていたが、何回も静脈穿刺や化学療法を繰り返していくうちに静脈も痩せてくるらしい。
合計8クールの化学療法もあるため、外来でのCVポート留置術を勧められ、12月9日に約2時間程度の手術を受けた。CVポートとは心臓近くの中心静脈までカテーテルを留置し、皮下(私の場合は左上腕内側の皮下)にカテーテルと接続する500円硬貨ほどのポートと呼ばれる器具を留置する治療法である。
特殊な穿刺針を用い、繰り返し皮膚からポートにアクセスでき点滴や薬剤を静脈に注入することが可能である。また、ポートの種類により、繰り返し採血やCT検査などの造影剤注入ルートとしても使用可能である。一度留置しておけば、入浴や日常生活も支障なく、月1回程度の定期的な洗浄を行えば、数年間使用可能である。私も以後の化学療法は左上腕のポートから施行し、手術に抵抗はあったが、実際治療していくうちに便利さを実感するようになった。

現在も治療は進行中であり、治療経過は今後も随時ご報告させていただきたい。

強調文

新年あけましておめでとうございます

新年あけましておめでとうございます。

皆様におかれましては、穏やかに新しい年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

昨年1年間を振り返ってみますと、令和3年のお正月は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第3波の真っただ中でした。GW明けをピークとした第4波、さらに8月のお盆休みをピークとした第5波と続きました。

当院では新型コロナワクチン個別接種の協力医療機関として、6月から10月にかけて1回目、2回目の個別接種を行わせていただきました。
新年を迎えましたが、年末年始の人の移動に伴い感染者数が増えつつあるため、第6波に対する十分な備えをする必要があると思われます。

また新たな変異ウイルス「オミクロン株」も出現しました。「オミクロン株」は従来の「デルタ株」よりも重症度は一般的に低いとされていますが、感染力は強く、市中感染が次第に広がりつつあります。外出時には必ずマスクを着用して、帰宅したら手洗い、うがいをすることを毎日繰り返すことが重要だと思われます。

一宮市においても新型コロナワクチン3回目の予防接種の準備が着々と進んでいる状況です。
昨年のブログにも書きましたが、人類の歴史の中で過去に大流行し克服してきた感染症と同様に、新型コロナ感染症とうまく共存できる日が早く訪れることを願うばかりです。

当院の診療体制については、昨年10月から松下医師が血液疾患のため長期の闘病生活に入り、現在も治療および療養中です。現在もなお、医師1人体制の診療日もあり、診察の待ち時間が長い日に来院された患者さまには大変ご迷惑をおかけしています。元の診療体制に一日も早く戻れる日が待ち望まれます。

このような大変な状況の中ではありますが、スタッフ一同、本年も皆さまの健康管理をサポートできるよう、全力で日々精進してまいります。

皆さまにとりまして幸多い年になることを心から祈念して、新年の挨拶と致します。
本年もよろしくお願い申し上げます。

              令和4年1月1日
             いつきクリニック一宮 院長 水谷憲威
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